山の向こう。
モルドバから、ルーマニアへ。旧ソ連からEUの一員への国境を越えた。
この冬初めての雪の降る日。気温は今にも氷点下にでもなるのではないかという中、国境の役人はホットチョコレートを僕に作ってくれた。
賄賂を受けることに熱心な旧ソ連の役人とは、まさに雲泥の差だった。
山峡の町、ヴァトラ・ドルネイ。トランシルヴァニア地方に向かうために越えなければならないカルパチア山脈にひっそりと抱かれた町。
吹き溜まりになってるらしいこの町では、およそ20CMの積雪が残っている。
暖かさが揺り戻ったそのわずかな隙をぬって、凍結を免れた峠を越える。標高を下げてゆく。ススキが揺れ、最後の木の葉が枝にしがみついていた。晩秋に、戻った。
先ほどの雪がまるで夢のように、まさに夢のように感じる。
二日間の、山越え。二日間の、泡沫。
いま滞在しているシギショアラは、ドイツの東方植民によって開かれた町。
そして、ドラキュラのモデルになったブラッド・テペシュ生誕地。
山間の小さな町の、その小高い丘が城壁都市となっている。
石畳、教会の鐘、そしてロマの人たちも多い。